『おひとりさまホテル』言わなくてもいいけど、伝わっちゃう人には伝わってしまうこと

漫画家・マキヒロチさんの作品『おひとりさまホテル』の主人公・塩川史香は、ホテルを作る会社に勤める31歳。元カレの「しいな」に再会して想いをよみがえらせるが、3年後に会った彼は既に既婚者となっていた。

史香や仕事仲間にとって様々なホテルに泊まることは日々の疲れをいやし、日常を乗り越えるためのエネルギーを得ることにつながっている。

同じ会社で働く森島賢人は30歳。仕事場には話していないが、同性の恋人&犬と暮らしている。

LGBTQへの偏見がかなり薄まりつつある世の中ではあるものの、森島は自分が同性愛者であることを特に人に話す必要はないと判断している。

5年も一緒にいる恋人は自分を親戚に紹介してくれず、相手はどう思っているのだろうと気にかけている。

筆者が高校生だった2013年頃までは、同性愛に対して偏見を持つ人が周りにいたのをよく覚えている。

男子同士の仲が良くいつも一緒にいる人たちに対して「お前らゲイなの?」と聞く人が近くにいた。女性教師が街で手をつなぐ同性カップルを見かけて、驚いた話を授業でしていたのだ。

今となっては人が好きになる相手が異性だろうが同性だろうが好きならそれで良いじゃん、と思う。そう偏見を抱く人に対して、怒りや疑問の感情すら抱かなかった気がする。

過去に強い偏見を抱かれていたLGBTQの人たちにとって、偏見がゼロになっていない日本で「私は同性愛者です」と言うこと自体がリスキーなのだろう。

誰かに嫌悪感を持たれる可能性がある、友達や仕事仲間が自分と目を合わせてくれなくなるかもしれない。

男性が女性を好きになることについて誰も疑問を持たないのに、男性が男性を好きになるのには驚く人がいるのが現状だ。

会社の人にわざわざプライベートをさらけ出す必要を感じないとはいえ、人との関係が崩れると考えるとカミングアウトのハードルは高くなる。

でも自分ではカミングアウトしていない、隠しているつもりでも周りには伝わってしまうこともある。

時代をかなりさかのぼるが、19世紀を生きたロシアの作曲家P.I.チャイコフスキーは同性愛者だった。現代日本を生きる男性の同性愛者によれば、彼の音楽を聴けばその性的指向が分かるという。

隠し事があっても、同類の人や自分より人生経験のある人には伝わってしまうかもしれない。

人に言う必要がないと考えることは、社会での偏見と生きづらさが原因であることも少なくはない。

言いづらいことは自分を形づくっているし、個性の大部分を占めているからこそ言うのがはばかられる。それとどう向き合っていくか、偏見のない世界を目指せるのかを考えたい。

※記事のアイキャッチには、筆者が奈良県のイタリアンで食べたペスカトーレを採用した。『おひとりさまホテル』1巻で史香が奈良県にホテルを作ったというエピソードがあるので、こじつけながら設定してみた。

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