『【推しの子】』映画監督・五反田泰史の自己肯定感がすごく低そう

赤坂アカさん&横槍メンゴさん共著の漫画、『【推しの子】』で描写されるアイドル界の実情がどの側面から見ても生々しい。アイドルグループの絶対的センターだった星野アイのお腹から極秘に生まれた双子が、高校進学を機にアイドルや映画監督を目指す物語だ。

双子の兄・星野 愛久愛海(アクアマリン)、通称アクアは自分とアイが出演した映画の監督・五反田泰志を師匠とし、彼のもとで映画製作の手伝いをしている。彼はアルバイトができない年齢ながら、中学生にして"夢"を持ち芸能界の裏方としての道を歩み始めている。

アクアも母親のアイが亡くなってからはずっと暗く何をしていても楽しくなさそうなのだが、彼を見守る五反田の個性がこれまた強いところにも注目してほしい。

五反田は40代半ばにして都心の広い実家で母親と暮らす。結婚はできていないと説明があるため、未婚だろう。

彼の実家の表札のところに「五反田スタジオ」と表記したプレートが貼られている。実家の自室に中学生のアクアを呼んで芸能界について伝授。

中学生からすれば40代半ばのおっさんはものすごく大人に見えるはずだ。しかし五反田がアクアと話している最中に彼の母親がノックもせずに入ってくる。

「泰志‼︎ご飯出来たわよ。降りてらっしゃい‼︎」

え、40代にもなって実家暮らしして(日本には子供部屋おじさんという悲しいネットスラングまである)、ご飯も親に作らせてんの? と、読者は思うはずだ。

五反田はアクアにそれっぽいことを偉そうに話していたが、その言葉の重量が一瞬で軽くなる。巨石からわたあめに変わったくらいの変貌ぶりだ。

映画監督って、アイドルや俳優と同じく稼げる人と稼げない人との収入差が激しいのかもしれない。五反田はおそらく業界で稼げていないから家を出られないのだろう。

中学生、というか未成年のアクアに「親元からそろそろ離れたら?」と言われると、五反田はムキになって言い返す。この1シーンだけでも彼の自己肯定感はかなり低いことが読み取れる。

見られるものなら五反田の頭の中を見てみたいし、自分で自分をどう保っているのかが気になる。

『【推しの子】』としては、40代で映画監督で大成している人を登場させても良かった。ただ赤坂さんと横槍さんの描く漫画には、今作に限らずクセの強いキャラクターしか出てこない。子供部屋おじさんを出して読者の記憶に刻み込ませるところも、さすが令和漫画業界のヒットメーカーと言いたい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA