たいしたキャプテンシーだ・・・『黒子のバスケ』海常高校・笠松幸男が大切にする、選手の役割と敬意

藤巻忠俊さんの漫画『黒子のバスケ』(集英社)は、高校生で並外れた身体能力を持つバスケットボール選手たちが全国制覇を目指す物語。

主人公・黒子テツヤは帝光中学校バスケットボール部にいた「キセキの世代」幻の6人目シックスマンで、都内の誠凛高校でもバスケ部に入部。黒子の中学同期でキセキの世代の1人には、人の技を自分のものにするのに長けた黄瀬涼太がいる。黄瀬は神奈川県にある全国クラスの強豪・海常高校の1年で、3年のバスケ部主将・笠松幸男は黄瀬が成長する姿を見守る。

今回は、漫画の時系列に沿って笠松の高いキャプテンシーを見ていく。




笠松率いる海常は4月に誠凛と練習試合を行う。この時まだインターハイ東京都予選は開催されていない。モデルとしても活躍中の黄瀬に女子の歓声が上がっていて、笠松は「いつまでも手とか振ってんじゃねーよ!!!」と彼の背中を蹴飛ばす。よそ見する後輩を正すことも忘れないが、やり方はかなりぶっきらぼう。

練習試合が進み海常が誠凛に98点対100点で負けると、黄瀬は「生まれて・・・初めて・・・負(けた)・・・」ことが悔しくて泣く。笠松は足で黄瀬の頭を殴りながらこう励ます。

「っのボケ。メソメソしてんじゃねーよ!!つーか今まで負けたことねーって方がナメてんだよ!!シバくぞ!!そのスッカスカの(脳内)辞書にちゃんと『リベンジ』って単語追加しとけ!」

黄瀬はバスケを始めて以来負けたことがなかった。

この言葉を通してバスケットボール選手として落ち込んだままにせず、次の段階に進めという姿勢が提示される。悔しい気持ちをリベンジへのエネルギーに変換することの大切さを笠松は教える。

話が進み、インターハイ準々決勝・海常vs桐皇戦の開始直前。笠松は昨年経験したインターハイでの初戦敗退を黄瀬に話す。当時の海常スタメンは優勝が望めるほど実力があった。その初戦で敗退したのは「オレ(笠松)のせいだ」と思っている。1点差の土壇場でパスミスして対戦相手の逆転を許したためだ。

自分の意志を貫きたい笠松は、今年のインターハイで優勝して過去の失敗を償おうとする。笠松は「それがオレのけじめで主将としての存在意義」と語る。

試合開始の直後19秒で桐皇が先制3ポイントを獲得。黄瀬が敵の早撃ちシュートを模倣しようとすると邪魔され、笠松がボールを奪い3点を入れ返す。誠凛の主将・日向順平いわく、笠松は「立て直してキッチリ攻めてもいい場面」で「すかさず返して流れをぶった切った」。桐皇のポイント獲得から笠松のシュートまでわずか12秒だった。

このシュートを見た桐皇の原澤克徳イケメン監督は「(流れもってかれ・・・)かけてますね。たいしたキャプテンシーだ・・・そうそういないですよ・・・が、彼(青峰大輝)を止めない限り流れは切れない」と呟く。青峰大輝は帝光中出身で「キセキの世代」の1人。




しかし第4クオーターの残り59秒で海常98点に対し桐皇106点。1分を切る中で8点の差が付き、黄瀬はシュートを決めると見せかけ笠松にパスしようとする。そのボールを青峰が止め、唯一のチャンスを逃したことに絶望。

笠松は後輩を「切りかえろ!試合はまだ終わっちゃいねーぞ!!」とげんこつをする。海常が負けたあとは「お前はよくやったよ」と手を差し出す。黄瀬は「センパイ・・・オレ・・・」と言いかけ、笠松は「借りは冬返せ」と肩を支える。厳しい言葉をかけつつ黄瀬のバスケへの姿勢を認めるところは先輩としても主将としても完璧。

冬の全国大会・ウィンターカップの準々決勝で海常は静岡県代表・福田総合学園と対戦。福田総合には帝光中の元スターティングメンバーで、凶暴さゆえに強制退部となった灰崎祥吾がいる。ウィンターカップ準々決勝前に黄瀬たちと灰崎との間でもめ事があったので、黄瀬は動揺している様子。

試合直後の笠松のドリブルは「速いっっ」「夏見た時より一段とキレが増してる!!」と言われるほどレベルアップしていた。笠松は灰崎について「チームプレー精神のかけらもねえ一番嫌いなタイプだぜ」と言い、本人に「1つ教えてやるぜ。先輩は敬えってな」と彼を抜き得点に繋げる。灰崎は先輩に横柄な態度を取っていた。

笠松は黄瀬の様子も見て「表情硬えぞ。どんな因縁があんのか知んねえがオメエはオメエのバスケをすればいい」と促す。『黒子のバスケ』で笠松は一貫して、軸を持ち自分を信じることの大切さを黄瀬に教える。

試合を観客席で見ていた黒子にも試合中「信じてますから」と言われた黄瀬は勇気づけられ、海常は準決勝進出を決め4強となる。

ウィンターカップ準決勝、誠凛vs海常戦。黄瀬は試合中に笠松との会話を思い出す。

黄瀬は笠松に「1~2年早く生まれただけでそんな偉いんスか?」と口答えするが、「ここにいる2・3年はみんなお前より長くこのチームで努力し貢献してきた。そのことに対する敬意を持てっつってんだ。お前はもう海常1年黄瀬涼太。なんか文句あんのか」と返される。

インターハイ桐皇戦で負けたのは自分のせいだと謝る黄瀬に対しても、笠松は「チームを勝たせるのがエースの仕事だ。けど負けた時の責任まで負うな。それは主将オレの仕事だ。お前エースは前だけ見てりゃいい」と言う。

黄瀬は笠松の言葉を聞いて納得。笠松は黄瀬をインハイ初戦敗退を悔やむ自分に重ね合わせ、エースの役割と主将の役割の両方を定義づける。黄瀬を精神的に大きく成長させたのは主将の笠松だろう。

ウィンターカップ準決勝で海常は80点対81点で誠凛に負ける。ここでも黄瀬は誠凛メンバーのいる場で見栄を張るが、海常メンバーだけになったとき「がぢだっがっだっス~・・・」(勝ちたかったっス~・・・)と大粒の涙を流す。

笠松は黄瀬にタオルを投げ「ったく。んなミエミエのヤセガマンしてるようじゃモデルはできても役者はムリだな」と肩を支える。仲間が悔しがっている時は思いっきり悔しがらせる。




次の試合で海常は緑間率いる秀徳高校に敗れ3位となる。誠凛はキセキの世代・赤司征十郎の洛山高校に勝ち全国制覇を達成。

優れたポイントガードとして全国屈指の実力を見せつつ、試合への姿勢やプレイヤーに対する敬意を仲間に教え、全国制覇への道に導こうとした笠松。こんな選手がバスケ部にいたら迷わず付いていきたくなるし、人間的に何段階も成長できそうだ。

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