『高慢と偏見』で描かれる母と娘という2つの女性性

英国・ハンプシャー出身の女流小説家ジェーン・オースティン(Jane Austen、1775-1817)の名著に『高慢と偏見Pride and Prejudice』(1813年)がある。

作品の舞台は18世紀後半~19世紀前半、英国の西南部ハーフォードシャの田園ロングボーン。そこに住む地主ベネット氏とその妻には5人の娘がいた。娘たちとは22歳の長女ジェイン、しっかり者な次女エリザベス、三女のメアリ、四女キャスリン、五女リディア。

本作では近所の荘園の借り手としてチャールズ・ビングリーとチャールズ・ダーシーが引っ越してくる。ダーシーは互いの勘違いや偏見はあったが最後には次女エリザベスと結ばれる。

本作は何度か映画化された。2005年の実写映画では、女優キーラ・ナイトレイ(Keira Knightley、1985-)がエリザベスを、ブレンダ・ブレシン(Brenda Blethyn、1946-)がベネット夫人を演じた。

小説や実写映画で描写される母親と次女はかなり対照的だ。

ベネット夫人は、ビングリー(俳優サイモン・ウッズ)とダーシー(マシュー・マクファディン)がそれぞれ「娘たちのひとりと結婚」(阿部8頁)することを意気揚々と望んでいる一方、エリザベスはそこまで結婚に興味がない様子。

エリザベスはベネット氏の親戚の牧師、ウィリアム・コリンズ(トム・ホランダー)からの滑稽ともいえる求婚をきっぱりと断り「狭量な、愚かな男」(阿部181頁)と酷い評価を下している。

エリザベスが結婚を拒否したときも母はコリンズとの結婚を強く望んでいた。この時代の女性はとりあえず結婚して家庭を持てば良い、という価値観に次女は流されなかったのだ。

第34章(阿部248~256頁)では姉ジェインとダーシーの親友・ビングリーとの仲を引き裂いたダーシーを咎め、「あなたとだけは結婚することなど考えられない」と大喧嘩する。彼からの手紙でその勘違いがなくなると、エリザベスは彼を心から愛し結婚することに。

次女がダーシーとの、長女はビングリーとの結婚が決まるとベネット夫人は「母としての幸福感の絶頂」(阿部503頁)に立つ。

ちなみに湊かなえ(1973-)の原作による映画『母性』(2022年)で、主人公・ルミ子(戸田恵梨香)の娘・清佳(永野芽郁)は「母性は人間の性質として生まれつき備わったものではなく、学習によって後から形成されていくもの」と主張している。

作品全体を通して女性は2つに分類でき、それは母と娘だと明かされる。太陽のような存在でルミ子が愛情を抱いた母と、自分の娘を愛せなかったルミ子。ルミ子は母亡き後、母を亡くす原因となった清佳に抱く嫌悪感を強める。

母性がどのような過程で芽生え、生まれた当初から女性にあるものなのかという疑問はオースティンの時代にも湊かなえの時代にも存在した。同じ家庭にありながら母親と娘とでここまで意識の差があることは明白だ。

『高慢と偏見』のエリザベスと『母性』の清佳が出産し愛娘と生きることを決めたとき、どのような女性になっていくのかも気になるだろう。

・参考文献
オースティン, ジェーン. 1996. 『高慢と偏見』. 阿部知二訳. 河出書房新社.

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